桃の節句を彩る娘や孫への思いが詰まった
『雛のつるし飾り』

[東伊豆町稲取]雛のつるし飾り発祥の地
2月初旬。伊豆半島は、河津桜をはじめとした花が主役になる季節。  
河津桜のほかに、自然が織りなす美しい景観、伊豆半島ならではの食、歴史、伝統が数多く存在する。この特集では、そんな伊豆半島の魅力を地元目線で紹介。初回となる今回は東伊豆町稲取地域に伝わる、『雛のつるし飾り』を紹介。
雛段の脇を飾る雛のつるし飾り
雛段の脇を飾る雛のつるし飾り

稲取の『雛のつるし飾り』

東伊豆町稲取地域に伝わる『雛のつるし飾り』は、3月の桃の節句に合わせ、古くなった和服の端切れを使い母や祖母が娘や孫を思い、人形を手作りしたことから始まった。雛段の両側に並べられたつるし飾りは、上部の竹ひごの輪から5つほどの赤い紐を垂らし、それぞれの紐に思いの詰まった7~11個の様々な飾りが吊るされている。飾りには、作り手たちの思いが、それぞれ込められている。

吊るす紐の数や飾りのパターンなどこれといった決まりはないが、1本の紐に吊るす飾りは縁起を担ぎ奇数にすることが決まっている。

昔も今も、華やかなつるし飾りが人々の目を惹きつけている。

たくさんの飾りには意味がある
たくさんの飾りには意味がある

祖母・母が孫・娘の幸せを願い作るこの世でたった一つのお祝い飾り

『雛のつるし飾り』は、50種類以上の飾りが存在し、その飾り一つ一つに意味が込められている。飾りの形は同じでも端切れの柄により見栄えも違ってくるそうだ。ここでは、主な3つの飾りを紹介する。

つるし飾り 桃
つるし飾り 三角
三角
つるし飾り さる
さる
つるし飾り だるま
だるま
邪気・悪霊を退治し、延命長寿の意味がある。また、早く花が咲き、植えやすく実が多いので多産を象徴する。
三角
香袋。お香は貴重品で、気を静める香は薬代わりでもあった。紫と白い布で富士山を表したものもある。
さる
厄がさる。難がさる。

その他にも47種類もの飾りがある。

決まりごとがない雛のつるし飾り。作り手によって、端切れ素材・飾りの形や数も異なるため同じものが2つとできない。飾りの『唐辛子』は、『悪い虫がつかないように』という思いで作られている。『唐辛子』が多すぎると男も寄り付かないと冗談を飛ばしながら、吊るし飾りを通じての地域のコミュニケーションの役割も担っていたとか。飾りの一つ一つの意味と作り手のメッセージを思いながら吊るし飾りを見直してみると、初見とは異なる印象を受けるのが、稲取の雛の吊るし飾りの奥深いところである。

外的な美しさを持ち合わせながら内面に秘められた奥深さがいつの時代も人々を魅了してきたのだろう。

影を潜めた伝統を復活させた絹の会

『昔は、雛の吊るし飾りが、稲取の商店の軒先を彩っていたけど、年が経つごとに寂しくなってしまったと』と語る、【雛のつるし飾り】普及に努める【雛のつるし飾り工房 絹の会】の森さんに話を聞いてみた。

稲取における『雛のつるし飾り』の起源は定かではないが、江戸時代後期頃にはあったと言われている。他地域との交流手段があまり無かった江戸時代に稲取港を訪れる江戸や京の影響を受けた商人によりこの地域に広まったそうだ。お雛様が高価だった時代、お雛様が買えずつるし飾りを飾る家庭もあった。本来、つるし飾りは、お雛様と一緒に飾るもので、あくまでも主役はお雛様。

町内で一番古いつるし飾りは、江戸時代末期に江戸に行儀見習いに行った娘が作ったもの。戦後、生きることで精一杯だった時代『雛の吊るし飾り』は、影を潜めてしまった。今から20年ほど前に近隣市町にはない、稲取独特の美しいこの伝統を後世に残したいと考え、平成5年に稲取婦人会が行った手芸講座により伝統が復活した。

絹の会の作る飾りは、良質な昔の着物の生地を利用して作られている。古来の着物の生地に使われた絹の色彩はとても鮮やか。その生地で作られた飾りは、一段と見栄えが冴える。生地の中でも、おめでたい時に使う伝統のある有職柄(青海波柄や亀甲柄等)は特に格式が高いとのこと。

飾りを作る絹の会のメンバーたち
飾りを作る絹の会のメンバーたち

雛のつるし飾り工房『絹の会』がある施設には、雛の吊るし飾りの見学や体験に海外・日本全国から客が来るそうだ。絹の会では、お客と話をしながら、その嗜好や要望を聞き、お客に応じた特別なつるし飾りを作る。一つ一つ思いを込めて作るつるし飾りは、地元女性達のユーモアが結実した逸品である。

また、この会では『だるま/かくれみの/なりきんまめ/ねんねこざぶとん』など新しい飾りの意匠をオリジナルで生み出している。日々、飾りにアレンジを加え、遊び心を持ちながら、地元女性を主体とした14人のメンバーが稲取の伝統を繋いでいる。

稲取ではつるし飾りもお雛様も、どんど焼きに門松や締め飾り、習字と一緒に焚きあげて流す風習があったため、古い物はあまり残っていない。施設の中では、流し雛をせずに、母や祖母の思い出を大切にしまっていた、稲取の各家庭から提供された飾りを借りて展示している。

古いものでは、昭和初期に作られたものも飾られている。なお、絹の会のメンバー指導のもと、飾り作成の体験や飾り自体の販売なども行われている。

時代の流れなのか、娘のために作られてきたつるし飾りも、今では息子のために購入する客も。現在もつるし飾りは家族の絆も深める役割を担っているようだ。

稲取の雛の館等の施設紹介

雛のつるし飾り工房『絹の会』の展示以外にも、稲取ではこの時期、雛のつるし飾りまつりが開催されている。【雛の館 むかい庵】をはじめ、絹の会から少し海側に下った【文化公園 雛の館】では全国の雛のつるし飾りが展示される。高さ数メートルの天井から吊るされている大型の飾りが人々を圧倒している。今回紹介した、稲取の雛のつるり飾りをはじめ、福岡県柳川市の「さげもん」、山形県酒田市の「傘福」といった全国各地に伝わる飾りとの比較も一興である。

「雛の館」のつるし飾り
「雛の館」のつるし飾り

INFORMATION

雛のつるし飾り工房 絹の会
雛のつるし飾り工房 絹の会
〒413-0411 東伊豆町稲取429
電話/0557-95-0722
営業時間/0557-95-0722
定休日/年中無休
施設詳細
稲取文化公園 雛の館
稲取文化公園 雛の館
〒413-0411 東伊豆町稲取1729
電話/0557-95-2901
営業時間/10:00~21:00 (足湯利用時間)
定休日/年中無休
施設詳細

周辺グルメ GOURME

もっと見る